わたしが占星学を学び始め、その占星学と真剣に関わり始めた頃(1984年あたりのことです)、誰しもの出生図に必ずダーク・ムーンと呼ばれるリリスの神話が描かれていることを発見しつつあったわたしにとって、その「発見」は非常に興味深いものであるような気がしていました。しかしわたしは、幾年もの歳月をかけながら、このリリスの神話に代表されるような、占星学のテクニックというものに落胆していったのでした。
最初に落胆したその理由とは、地球の周囲で月と平行して存在する「見えざる天体」ー初期の占星学者たちが熟考し「リリス」と名付けたーが、事実、全くもって存在しなかった、ということです。この事実をわたしが受け止めることができたのは、唯一、中世の時代に発展していったアラブにおける占星学がもたらした多くの仮説(例えば月の交点)としてのみでした。
2つ目の理由は、例えば、もしWheel of Fortune(運命の輪)といったアラビックパーツ(訳者補足:その昔、中東アラビアの占星術家たちによって考案された、占術において多用された計算上のポイントのこと。)や、加えてアステロイド(小惑星)占星術などを出生図に重ね合わせてしまうと、その出生図が、交点と天体でただひたすら混み合った迷宮図になってしまうことでした。もちろん、アラブの占星学を学ぶことは魅力的なことではあるのですが、そのためには、アラブの伝統的な文化を真剣に学ぶことを必要とし、ギリシャ時代後期とローマ文化の関係性に加え、中世の伝統科学を含む包括的なアラブの知識を学ばなくてはなりません。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、占星学的にダーク・ムーンについて語りたいと思うと、同時にわたしの内なる山羊座の質が、今挙げた様々なトピックに関する確固たる知識を必要とするのです。
3つ目の理由は、最も重要でもあり、結果、わたしを前進させることになったものです。それは、西洋占星術の基本要素(サイン、天体、ハウス、元素、アスペクト)が出生図を探求する際にもたらす、とても豊かで有り余るほどの素材そのものでした。アラビックパーツで取り扱うほとんどのテーマは、伝統的な占星学の側面からのアプローチが可能です。西洋占星術の伝統というのは、歴史的に長く、ギリシャ・ローマ文化の発展と共に、バビロンやシュメールに関する発見までをも含むのですから、そこには中世の発展や(当然のことながら)アラブでの発見、そして、19世紀・20世紀に数多くの占星術家によって見出されたことも全て含まれていくわけです。
このような非常に長い前置きを書いてしまったことへお詫びします。がしかし、この前置きを書いたことで、自分自身の伝統的占星学へのコミットメントについて、とても明確に表現をすることができたと思っています。
前回皆さんに、ダーク・マザーと冥王星・土星の山羊座トランジットについての見解をお届けしたのですが、あの記事を書いたことが、わたしにとって再びリリスの神話(古代ヘブライの伝統では、生まれたての赤ん坊をさらっては殺してしまうとされ、”女性の顔をした悪魔”と呼ばれていました)へと立ち戻ることとなりました。この(リリスの)邪悪なイメージを、母性としての経験における闇の部分(ダークサイド)に関連させてわたしは考えているのです。その闇の部分とは、母親が自分の子供に対して無意識に抱える全ての恐れを指し示します。例えば、病気や事故、はたまた子供を奪われる危険・・・それらのような恐れは、この悪魔・リリスに投影されるのです。また、ここで起きる投影というのは、女性の深い無意識の領域にあり、女性であれば誰しもが自分の子供に対して抱く「自分が子供を傷つけてしまう恐れ」の感情を含んでいるのです。
リリスの話に戻しましょう。そのリリスが持ち得た破壊的な母性という機能に加え、リリスは、非常に危険な、男性を誘惑する女の顔を持っており、男性を魅惑して性交渉へと誘い、行為の後にその男性たち首を締めるかもしくは彼らの血液を吸い尽くすかして、殺してしまうのでした。ここで表現されているリリスのダークな一面は、アニマー(訳者補足:心理学者ユングが提唱した)男性の無意識層にある女性的な側面を表しているのです。リリスは、男性が女性に対して力不足になった時の恐れを意味しており、例えば、女性との性行為をすることで、男性自身のエネルギー(リリスの神話では「血液」)が無駄に使われて弱まることへの恐れや、神話の中で男性の首が締められるというテーマは、男性が女性との関係性において真剣に関わる(コミットメント)ことに対して抱く恐れ、と理解することができるでしょう。私たちの住む現実世界においても、女性が自身のセクシャルなパワーを解放し活発に表現すると、男性はそれを恐れる傾向にあるのですから。
前編はここまでにします。後編では、さらにこのリリスの神話が表現しているダークな女性性の側面について掘り下げていきます。
後編はこちらから。
ザビエ・ベトコート
翻訳:持田 直子(Power in U, Inc./ザビエ・ベトコート・ジャパン)
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英語原文
LILITH AND THE DARK MOTHER
When I started studying and became seriously involved with astrology (1984), discovering that the myth of Lilith could be calculated for any natal chart, called the Dark Moon, seemed to me very exciting. But throughout the years I became disappointed with these astrological techniques.
First, because there is, certainly, no hidden planet parallel to the Moon around the Earth, as the first astrologers, who named it Lilith, had speculated. I could accept it only as a virtual point, as many other virtual points (such as the Lunar Nodes) that the Arabic astrology developed in the Middle Ages.
The second reason was, then, that if we cast on the natal chart the Arabic parts such as the Part or Wheel of Fortune (there are dozens of these), plus the Asteroids (Uranian Astrology), and so on, the Natal chart turns into a crowded maze of points and planets. Sure, the study of Arabic astrology can be enthralling, but it requires a serious study of Arab classical culture, an understanding of the interactions between Late Greek and Roman Culture, plus the traditional science of the Middle Ages, altogether with a good knowledge of Arabic. It might sound exaggerated, but my Capricorn temperament demands a solid knowledge of these topics, if I want to talk about the astrological Dark Moon.
The third reason allowed me to move on, the most important, was that the basic components of Western Astrology (signs, planets, houses, elements and aspects) provided me with an incredibly rich and exuberant material for exploring a natal chart. Most of the themes that the Arabic parts deal with can be approached purely from the perspective of traditional Astrology. The Western astrological tradition has a long and serious lineage; it includes Babylonian and Sumerian discoveries with Greek and Roman developments, then we have to add the developments of the Middle Ages, several Arabic discoveries (of course), plus the formal studies of many astrologers of the XIX and XX centuries.
Well, I do apologise for this long introduction, but it helps me to make clear all about my commitment with traditional astrology.
Since my last comment about the transits of Pluto and Saturn in Capricorn associated with the Dark Mother, I was led to revisit the myths around Lilith, the so called female devil, in the Hebrew tradition, supposed to snatch and kill new born babies. I associate this sinister image to the dark side of the motherhood experience; it means that all the unconscious fears that a mother has about her own child, such as illnesses, accidents, or even risks of being stolen, are projected onto this Lilith demon. Moreover, this projection absorbs the very unconscious hostile feelings a normal woman can have against her own baby, the fear of harming it herself.
Besides her destructive mother function, Lilith was also a terribly dangerous seductress, she would allure men to have sex with her, and later on she would kill them, either by strangling them or sucking their blood. This dark image represents, in fact, the anima, the female unconscious dimension in a man; Lilith stands for the fear a man might have of becoming weak or powerless with a woman, of wasting his energy (his blood) having sex; the strangling theme could be associated to the fear of a serious commitment in a relation with a woman. In the real world, when a woman expresses openly and actively her sexual power, men tend to be frightened.
Please read the continued article from here.
Xavier Betancourt
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